フォートナイト×米津玄師 無料ライブの現代性とこれからのオンラインイベントへの試金石 〜あなたはそれを目撃したのだろうか?

『フォートナイト』において、8月7日の20時から開催されたバーチャルライブ『米津玄師 スペシャルイベント』。あなたは観ましたか?
ぼくはと言えば、このニュースはその初回イベントが終わってから知ることになり、非常に残念な思いをしました。何人かの若者に目撃したかどうか聞き、目撃したという人に事実の確認をしたうえで、今回、こんな大事なイベントをやはり取り上げずにおくべきかと思ったので、実は準備中の記事内容に差し替えて、このイベントを題材に「メタヴァース」と語られる技術などの振り返りをしていきたいと考えました。
では、早速、このイベントの内容を振り返っていきましょう。
この記事の内容は、
『フォートナイト』の中で米津玄師さんが音楽ライブを開催した革命性の秘密
今回のイベントをとにかく誰もがわかるように伝えるなら、
『フォートナイト』というゲームの中で米津玄師さんが音楽ライブを開催した
というそれだけのことなのですが、
まず第一に、
「ゲームの中で」ってどういう意味? と詰まる人たちがいるはずです。
オンラインゲームとしての『フォートナイト』について、少し解説をしておくと、
このゲーム自体が、ゲームカルチャー内ではすでに確立されていた「オンラインゲームも場所である」という事実を前提に開発されたタイトルであり、それがこのゲームの哲学でもあるという背景があるのではないかと思います。
今回のイベントもそのひとつであったわけですが、
『フォートナイト』には「パーティーロイヤル」というモードがあり、暴力のない、純粋にくつろいだり楽しんだりするための場所が用意されています。アニメから飛び出してきたようなファストフードの店舗や静かなビーチがあり、プレイヤーはバギーでレースをしたり、サッカーをしたり、友人や知らない人と一緒にディスコパーティーに参加したりすることができるというものです。
ショーのなかで、プレイヤーそれぞれがシューティングを楽しみ、マイクの向こうでスナックをつまんだり、流れ落ちる空を背にしたアーティストを見たりしながら、その場にいる感覚を味わうことになります。
と、そういうことなわけですが、実際にその現場に触れてみないとその「リアル」さはわからないというのも事実でしょう。
少し視点を変えると、2年ほど前に話題になった、『レディ・プレイヤー1』で描かれる世界が同様な世界観を有していると言えるかもしれません。
「ゲーム×ライブイベント」という新たなエンタメのカタチが見えた
では、「米津玄師 スペシャルイベント」を振り返っていきたいと考えます。
【米津玄師がパーティーロイヤルに登場 | フォートナイト】
そのまえに、『フォートナイト』にあるゲームモード「パーティロイヤル」を紹介しておきましょう。ここが理解できないと、始まりません。
『フォートナイト』というゲームの本質は、もともと最大100人が参加して、最後の1人(1チーム)を決めるバトルロイヤル。が、「パーティロイヤル」は対戦要素がありません。ゲームに参加して、島に降り立つところまでは一緒だが、そこから先は「遊んで過ごす」ことが目的となる。ちなみに『フォートナイト』は基本無料であり、「パーティロイヤル」への参加ももちろん無料だったことが、今回イベントの話題作りには大いに重要なポイントだったでしょう。
この「パーティロイヤル」を利用してときおり実施されているのが今回のようなスペシャルイベント。米津玄師さんのライブ以前にも同様の取り組みは行なわれていて、最近ではDJイベントの開催や映画『インセプション』上映などがありました。4月24日から5回にわたって開かれた「トラヴィス・スコット×フォートナイト」には、計約2,700万人のプレイヤーが参加したと言います。
さて。「米津玄師 スペシャルイベント」では、島の浜辺に巨大スクリーンが設置されていましたが、この「メインステージ」にはキャラクターを操作して浜辺へ移動しなくてはなりません。ゲームに慣れていない方々は、実はその操作でまごつくものなのでしょうが、そのあたりは割愛しておきます。一言加えると、その移動というプロセスが既に新しい世界への導線になっていて細かな配慮が仕掛けてあるものです。
つまり、紛れもないフェスの空間が「パーティロイヤル」の中に再現されているということで、「さぁ、これからライブだぞ」というワクワク感もあるし、自ら足を運んで「フェスに参加しに行く感じ」も、とても上手く再現されているわけです。
余談ではありますが、元来、3人称視点のシューティングなのでアクション性や操作性に優れているのもいい、という意見も聞きました。具体的には、単に「アバターがいて動けます」みたいなバーチャルライブというものではなく、ペイント弾が用意されていたり、ジャンプ台が床に仕込まれていたりと遊びも多く、自己表現としてさまざまな工夫ができ、実際に使えます。それが、一方的に、バーチャル空間で聴かされるという苦痛を徹底的に排除しています。
「米津玄師 スペシャルイベント」のスペシャルさとは、なんだったか
言うまでもなく、やはり米津玄師さんの人気という大きな価値がまずありました。また、このようなイベントを行なう日本人アーティストとしては初の試みだったということもスペシャルさを演出していたでしょう。
ぼく自身がそうですが、特に普段ゲームに触れていない人たちが、米津さんのライブと知り改めて『フォートナイト』をインストールした、という人たちも相当多かったのではないかと思います。
そのうえで、ではどんなライブを見せてくれたのか、ということを確認しましょう。
『フォートナイト』はPC、プレイステーション 4、Xbox One、Nintendo Switch、Android、iOSと、いわばプラットフォームは全方向で対応していて、ゲーム機がなくても手元のスマートフォンでも参加できるものでした。いま書き出して、この事実にあらためてすごいことだなぁと感じています。
ぼく自身は、全くゲームをしないのですが、マルチプラットフォームが過去にはいかに大変だったのかということは、実際に制作会社の一人として体験もしていますので、まずなによりそういう点での感慨が先に来てしまいます。
セットリストは、以下の5曲。
1.迷える羊
感電だー!! pic.twitter.com/elDOruhfEJ
— だいちゃ@夏休みは短い…… (@DAICHI58216708) August 7, 2020
2.感電
3.砂の惑星
4.パプリカ
https://twitter.com/FTN_NYON/status/1291724241990111232?s=20
5.Lemon
特に、世の人気の常かもしれませんが、『Lemon』を演ってくれたということに興奮気味に語られる参加者が多かったように思います。
イベントの途中で米津さんのMCが入り、
「待ってくれている人を残してバラバラになって、捨てざるを得なかったライブツアーに変わるものを探した結果、実験的にこういうカタチでライブをやってみようと、そういう決断をするに至りました」と、ライブツアーが開催できない無念や待っているファンへの思いが語られ、今回の決断に至る気持ちが語られたことも大事なポイントでした。
コストのみを考えれば巨大スクリーンで既存のMVを流す選択肢もあったはずです。それでも、あくまで「スペシャル」さを追求して今回ならではの新しい体験を作り出していたことは、苦境に立つ音楽ビジネスにとっても大きな可能性を見出したものと思います。無料でこれほどの体験ができることは、素直に「米津さん、Epicさん、ありがとう」と感謝しかないでしょう。
当日のSNSの盛り上がり
ぼくの場合は、ほぼ事後の発見だったことを冒頭に告白していましたが、Twitterの履歴を眺めてみると「子どもから『フォートナイト』でやっているライブのことを聞いた」という人もいて、世代間的にも幅広い浸透を裏付ける事実でした。
本日20時から改めて公開されるので、現在これを書いている12時の時間でもその期待のTWが続いている状態です。
容易に想像できることですが、どんどん流れていくTwitterのタイムラインも同時に見ていると、「米津玄師の音楽ライブを多くの人と体験した」という実感が強く残るものとなっていくのでしょう。数年前から、TV番組の消費のされ方が変化したということをあちこちで語るようにもあなっていますが、オンラインイベントならではの楽しみ方というものがまたこれを機に、新たに開発されていくのかなという気がしました。
「メタヴァース」という視点からの振り返り
さて、最後に「メタヴァース」という技術的な視点から、このイベントを考察し、記事を終えたいと思います。
ぼくのキャリアからすると、この技術である種のブームを最初に起こしたものは、2003年にリリースされたセカンド・ライフをすぐに思い出します。電通が広告媒体として利用しようと土地を買ったりして、TVのバラエティやワイドショーなどでも頻繁に取り上げられ、ぼく自身も「それをどう使ったらいいのか」と多くの企業から相談を受けたことがありました。
「昨年からセカンドライフの仮想空間が話題となり、そこに集まる個人ユーザーを狙って企業が出店しはじめていることは周知の通りだ。ところが大半の企業は、仮想空間におけるビジネスの急所がどこにあるのかわからずに、リアルビジネスの発想で「とりあえず土地を買って建物を作れ」という行動に出ている。しかし、仮想空間の土地に対する価値などハードディスクの値段に過ぎないということを踏まえれば、自身(自社)の仮想キャラクターを育てることのほうに急所があることに気付く。」
(過去のメモから)
はてなも、同時期に「メタヴァース」を活用したサービス創出に苦心していたかと思います。
実際には、このセカンド・ライフは、ごくごく一時期瞬間的に盛り上がっただけで、定着することもなく、急速にしぼんでしまいました。そもそもこれは何だったのか、というと、人生をシミュレーションするゲームでした。ゲーム内通貨が定められそれはもちろんゲーム内で消費されるものなのだけれど、それが売上としてリアルな通貨に換金ができるという仕組みがまた射幸心を煽ったという側面があったでしょう。プレイヤーは出店して、リアルな売上を追求することもできたのです。
ゲームそのものの売上なら、シムシリーズのほうが遥かに上でしょう。さらに時代をさかのぼれば、初めてオンライン対戦を実装した1985年の「Island of Kesmai」があり、グラフィックがないテキストのみのターン制のゲームで、文字とドットでマップを再現していたこれを、ゲーム由来の「メタヴァース」の始祖だと語られることもあります。
さて、セカンド・ライフでは実現できなかったけれども、技術的にそれが可能になった、難なく可能になったこともいくつかあります。高度なグラフィック表現もそのひとつですし、AIで語られる仕組みももちろんそうですし、仮想通貨で語られる金融面の仕組みなど、まさに時代を先取りしていたと言いたくなるような機能が存在していました。
もうひとつ。機械の側のスペック不足という点は侮れなかったでしょう。セカンド・ライフは、立体的に自分のキャラクターを動かして買い物やコミュニケーションできるというのがウリではあったのだけれど、それを楽しむにはCPUやメモリー、グラフィックボードなどが強化されたパソコンでないと画面がスムーズに動きません。セカンド・ライフを一度試してみて、動作が重すぎて諦めたという人は少なからずいたろうと思います。3Dコミュニティ等のグラフィック描画機能が進化していくことに合わせて、自分のPCをグレードアップしていくことには現実的ではありません。これ、例えば、今回の(コロナショックで)リモート会議をする必要が出てきてしまって、急に新しいPCを用意しなければならなくなったということにどこか似ていませんか?
一方、2、3年の振り返りをしてみると、Vtuberとの言葉で語られるトピックがありました。これは直接的に「メタヴァース」とは繋がりませんが、そこから表現されるコンテンツまで展望すると、人繋がりの技術であるとも言えるでしょう。その先に拡がっていくのが、映画『レディ・プレイヤー1』の世界ではないでしょうか。
「メタヴァース」について、最後に少し語ると、それは「場」であるという強固な意思をそのコミュニティのありようから感じます。それは、ビデオゲーム(オンラインゲーム)は軽薄で暴力に満ちているものであるという主張の対極に、ゲームは平等であるという価値を主張する感じに似ています。
最後に:
『フォートナイト』では「パーティロイヤル」を利用したスペシャルイベントは恒例となっていて、今後もどんどん開催されていくはずです。今回のイベントでは、日本のアーティストとして米津さんが初登場となりました。この次はどんなアーティストが出演するのでしょうか。
今から、楽しみにしてるファンもとても多いはず。
追記:収益だけで考えると、9日にTwiceが韓国時間15時から全世界126か国に有料同時配信でイベントが行われています。こちら、公式発表によるとおよそ900万人超が参加、チケットは3,680円で販売されました。300億円超です。
https://www.twicejapan.com/news/detail/635
ここは多くの音楽ビジネスプレイヤーが殺到していくことになると容易に想像できます。
伝説としても語られる、GRAYの20万人ライブが、特設会場の総工費が30億円、警備やスタッフの人数も尋常でなく、7500人、警備員3000人、仮設トイレ1500個、ツアーバス500台。が、最終的な収益は一節には赤字だったとも言われ続けています。物販売上があるので、赤字にはなっていないのではという意見もあります。ちなみに、このチケット代は6500円。ぼくの記憶にある中ですと、ダイヤモンド・ユカイのデビューでもあるレッド・ウォリアーズのホールでのライブチケットは1000円だった記憶があります。それが安すぎるのか、いまのチケットが高すぎるのか、、、ライブ行きてぇ〜